前回に引き続き眼の病気についてです。

今回は1年ほど前に診察・治療した症例で、症例写真の整理をしていたら出てきたので紹介したいと思います。

このワンちゃんは角膜にトラブルを起こしてしまい、その後なかなか改善しないとの事で知り合いの病院から当院を紹介され診察を行ないました。

1ヶ月程前に同居犬と喧嘩をしてしまい、その後一週間位後から右眼にしょぼつきが見られたとのことで病院を受診して角膜潰瘍と診断されました。その後、角膜潰瘍に対する治療を行なっていたのですが、なかなか完治せずに3週間後に角膜中央部にリング状の肉芽組織がみられ中央部が陥凹してしまったとのことでした。

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当院に来院された初日の治療前の写真です。ピンク色になっているところが、肉芽組織といって傷を治す過程で生じる線維性結合組織が角膜を被ってしまった状態です。ちょうどドーナッツ状になっています。

この状態だと角膜の透明性が失われてしまっている為、中の状態を確認するのが大変です。幸いにも角膜の輪舞と呼ばれる端っこの部分からスリット光が入り少しだけ観察できました。その結果、虹彩の角膜内皮への癒着と呼ばれる状態にはなっていませんでした。

一番恐れていたのは、角膜表面の外傷が実は角膜を突き破って中にまで損傷を起こしており、角膜穿孔と呼ばれる穴が開いてしまっていたのではないかというものでした。

とりあえず、その心配はなさそうで角膜表面の細胞診をした結果、炎症性細胞と角膜細胞だけしか見当たらず、特に悪い細菌や真菌などはみられませんでした。

根本的な原因は不明ですが、何らかの理由により初期治療が上手くいかずに時間が経過した結果、このままでは治らないのでとりあえず傷を治そうと外傷部分を肉芽組織に置き換えた状態になってしまったのではないかと推測されました。

角膜に穴が開いておらず、表面上の傷もない、涙液も問題ないし、睫毛などの異常もないことからステロイド剤による点眼と抗菌剤による治療、角膜上皮の治癒目的の内服薬を処方して経過を診ていくことにしました。

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上の写真は治療開始後3日目ですが、あまり大きな変化はみられません。少し肉芽組織が薄くなり角膜の透明性が増した感じでした。

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非常によい笑顔をしております。右眼が左眼と比べるとやっぱり赤いのが気になります。特に点眼や内服による副作用などは起きませんでしたので現状の治療を継続することになりました。

そして、治療開始から2週間後の再診時の写真です。

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肉芽組織がかなり減少し、角膜の透明性がぐーんと上がりました。しかしながら、角膜が受けたダメージの範囲は広く、そして強かったようで角膜実質の混濁(白濁)は依然と残ったままです。

角膜実質のターンオーバーは角膜上皮とは違って数ヶ月単位を要しますし、一応再生はするのですが100%は治らず一部は瘢痕化してしまい透明性を失ったままになってしまいます。因みに、角膜実質とは角膜の約90%を占める細胞層のことです。

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治療開始直後と比べると、写真では少々分かりずらいのですが白さは残るものの見た目は良好です。その後も角膜保護を行ないつつ、肉芽組織の浸潤を抑制するために点眼を継続して経過をみることになりました。

その後の写真は残念ながら撮影しておりませんでしたが、日に日によくなっており、見た目的に眼の白っぽさは殆ど気にならない程度にまで回復したとのことでした。