すでにマスコミより発表されていますが、来月4月5日、猫にとっては嬉しい?新薬が登場します。

それは、動物用医薬品の中で初めて「腎機能低下の抑制」が効能・効果で認められた治療薬が誕生するからです。

新薬の名前は「ラプロス」、有効成分はベラプロストナトリウム(経口プロスタサイクリンPGI2誘導体製剤)です。

人体薬として「ドルナー」という薬が販売されていますが、それの猫用製剤になります。

猫の死亡原因の中で2番目に多いのが「腎臓病」であるという統計データがあり、3頭に1頭は罹患する病気です。

なぜ猫に腎臓病が多いのかという明確な理由は分かっていません。

ただ、世界中で飼育されている猫の祖先がリビアヤマネコである関係とも云われています。

リビアヤマネコはエジプト周辺が発祥の地と云われており、砂漠地帯で暮らしていた為に少ない飲水量で生活することに慣れていました(?)。猫は肉食動物にもかかわらず、飲水量が少ないことから老廃物を少ない水分で処理(濾過)する必要があり、日常的に腎臓に負荷がかかっています。腎臓の細胞(ネフロン)は再生されませんので、小さな障害が積み重なり高齢期に入り腎臓病になりやすいのではないかと考えられています(仮説です)。

慢性腎臓病は、腎臓の機能が徐々に低下していくことで、食欲不振や体重減少、多飲多尿、嘔吐など様々な症状が現れます。特に高齢の猫においてよく認められ、10歳齢以上の猫における有病率は30~40%と報告されています。

しかし、猫の慢性腎臓病は、病態が解明されていないことも多く、治療の選択肢は限られていました。

その為、一般的に血液検査などで発見される(Creの上昇)場合、すでに腎機能の75%以上が喪失していると云われています。残り25%でも適正な管理・治療を行えば、数年状態を良い形で維持することはできませんが、完治ができる病気ではありません。

治療の目的は、主に腎臓病の進行抑制と脱水補正などQuality of Lifeの向上になります。

腎臓病には慢性と急性がありますが、ここでは慢性腎臓病(CKD : Chronic Kidney Disease)に対して記載します。

腎臓病はIRIS(International Renal Interest Society)という団体が猫の腎臓病のステージ分類表を提唱しています。IRIS分類では血中クレアチニン(Cre)濃度をもとに4つのステージに分けて状態を評価していきます。

IRIS分類 血中クレアチニン(Cre)濃度(mg/dl)
ステージ1 < 1.6 
ステージ2 1.6 ~ 2.8
ステージ3 2.9 ~ 5.0
ステージ4 > 5.0 

この薬は、上記表のステージ2~3の個体をターゲットにしています。

ステージ2に入るとすでに腎機能の75%が喪失してしまっていますので、最近ではSDMA(対称性ジメチルアルギニン)という新しい指標を用いて早期に腎機能障害を発見しようという流れになりつつあります。

従来の検査方法であるクレアチニンは、腎機能の75%が喪失するまで上昇しなかったの対し、SDMAは腎機能が平均40%喪失した時点で上昇すると云われています。検査機関のデータでは、猫では平均17ヶ月、犬では平均9.5ヶ月早く腎臓病を発見できる可能性があると云っています。

一見、SDMAって、すごいじゃないかと思ってしまうのですが、落とし穴もありまして、正常値内での変動が激しいので実は評価するのが難しいのです。下がることなく継続的に上昇している場合や正常範囲を逸脱した上昇が確認出来た場合は、評価を間違えることはないと思うのですが、ピンポイントでの評価は正直難しいです。ですので、継続的に測定し、数値をモニターする必要性があります。

検査会社が東京にあるので、北海道から送るとクール便での検体送料がかかってしまうので、都内と比べると検査費用が割高になってしまいます。概ね5000円位でしょうか?

IRISステージ分類には、クレアチニン以外に血圧や尿蛋白濃度などのサブステージ評価も必要ですが、今回は割愛します。

従来はACE阻害薬(エナラプリル、ベナゼプリル等)やARB(セミントラ等)という薬を用いて、血圧を下げることで蛋白尿の抑制や血圧降下によるCKDの進行抑制を行ってきましたが、新薬はこれらの作用よりも一歩進んだ効果が期待できそうです。

ラプロスは、従来の血管拡張作用の他、血管内皮細胞保護作用、炎症性サイトカイン産生促成作用、抗血小板作用という効能が加わり、その薬理作用により炎症、血流減少、低酸素および線維化の悪循環にアプローチすることで腎機能の低下を抑制します。

猫の慢性腎臓病における臨床試験の結果を見る限り、ラプロスを投与した群とプラセボ群の血清Cre値の変化を180日にわたりモニターした数値の変動で、かなりの有意差(投与群は変動微、プラセボは上昇)が出ていることが分かりました。

このことから、ラプロスが慢性腎臓病に対して有効的であるという事がわかります。

ただし、この薬は腎臓病が治る魔法の薬ではなく、あまり有効的な治療方法が確立されていなかった慢性腎臓病に対して、腎臓(ネフロン)を保護し、その結果として従来法よりも延命効果が期待できる新たな治療法が確立されたと思ってください。

猫は犬と比べて投薬が難しく、直径6mm大の錠剤ですが、投薬ができなければこの新薬の効能は発揮されません(臭いは無臭)。また、この薬は1日2回の投薬が必要になりますので、薬代としては260円位/日(7800円位/月)はかかりそうです。その他、腎臓の検診(血液検査など)もありますので、それなりの維持費がかかります。

最後に、7kgを超える猫には残念ながら薬の有効性は確立されていないため、太っている子は減量を、大型の猫ちゃんは別の治療法をお勧めします。

まだ販売されていませんが、慢性腎臓病の猫ちゃんに新たな治療の提案ができることは喜ばしいことです。