前回は副腎疾患の話題でしたが、今回はフェレットのインスリノーマについてです。

インスリノーマとは、膵臓のランゲルハンス島と呼ばれる部位にあるβ細胞(インスリンを分泌する細胞)が腫瘍化したものです。その為、膵島細胞腫や膵臓β細胞腫などとも呼ばれています。

インスリンとは、糖分(グルコース)を細胞内に取り込む際に必要なホルモンで、糖尿病はこのインスリンが分泌されていないか、または、インスリンの作用を邪魔する何らかの原因が他にある為に起こる病気です。インスリノーマの場合は、糖尿病とは逆に、このインスリンがβ細胞(インスリンの製造工場)から異常なまでに分泌されることによって、グルコースの細胞内への取り込みを増加させてしまいます。そして、肝臓で糖新生を抑えてしまうため、結果として血液中に含まれる糖分(グルコース)が足りなくなり、低血糖に陥ってしまいます

このインスリノーマは、2歳以上のフェレット(特に4歳以降)で見られる最も一般的な腫瘍性疾患の1つです。性別による発生頻度の違いはありません。また、この病気は組織学的には良性であっても、病態的には予後不良です。しかしながら、治療によるQoLの向上や延命を促す事は可能です

症状として、元気消失、慢性的な衰弱、時に食欲不振、体重の減少、痙攣や昏睡、流涎、行動の異常などがあります。行動の異常は、グルコース(糖分)欠乏の結果、カテコールアミン(ドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナイン等の神経伝達物質)の放出や交感神経の緊張亢進が原因で起こると云われています。

元気消失や体重減少、食欲不振などは老齢化に伴う変化のように感じる場合が多く、初期の頃は発見が非常に難しいと云えます。大抵の場合、痙攣発作や流涎などの神経症状を起こして来院され、血液検査の結果、初めてその病気の可能性があることが分かります。残念ながら、一般的な超音波検査やレントゲン検査での画像診断はインスリノーマは確定診断の手助けにはなりません。

では、どのようにインスリノーマを診断ですのでしょうか?

確定診断を下すには膵臓の病理組織検査が必要になります。しかしながら、いくつかの項目が合致した場合はインスリノーマの仮診断が可能となります。

空腹時の低血糖(60mg/dL以下)

低血糖に関連した臨床症状

糖分の投与による神経症状の軽減

以上の3つの徴候を満たした場合は「インスリノーマ」と仮診断が可能です。

その他に低血糖時のインスリン濃度を測定することでも仮診断は可能です。本来、低血糖時にはインスリンの分泌がされていてはいけない状態なのですが、それが正常値以上であった場合、インスリンの過剰分泌が示唆されるというものです。修正インスリン・グルコース比(AIGR)という計算式を用いて評価をします。

血液検査にて、時々、肝酵素の上昇が見られる場合があります。これは慢性的(持続的)な低血糖の結果、肝臓に2次的に肝リピドーシスが起きたか、インスリノーマの肝臓への転移が原因と云われています。それ以外の可能性もありますが・・・。

肝リピドーシスとは、持続的なエネルギー不足の結果、脂肪細胞に蓄積された余剰カロリーを肝臓でエネルギーに変換する作業が必要となり、全身から大量の脂肪が肝臓へ移動します。その結果、肝臓に脂肪が集まりすぎた為に処理が追い付かずに脂肪肝状態になってしまうというものです。

次回は、治療についてです。