連日連夜と真夏日・熱帯夜が続いております。昨年はあまり使用しなかったエアコンですが、今年はフル稼働で使わない日がないです。「夏が暑いと冬は大雪」なんていう言葉がありますが、今年の冬は一昨年のような状態になるのでしょうかね?

さて、また胆嚢疾患に関してです。

ここ数年、本当に胆嚢疾患が多いです。遺伝的の問題なのか、食事・オヤツの問題なのか明確な因果関係は分かりません。
肝臓外科をしていると症状や犬種・年齢等から明らかに疑いのある個体を見分けやすくなった為、胆嚢疾患を発見しやすくなっているんだと思われます。
見つかってしまったことに対して、無症状や重症化前に見つかってよかったと思われる飼主様もいれば、見つけてくれるなとばかりの飼主様もいるので、なかなかどうして難しいのが動物医療の実情です。

無症状、かつ軽度の胆泥症であれば経過観察(年に1回以上の検査は必要)です。
中度ならば定期的なモニタリングが必要になります。
重度であれば外科的治療が望ましいです。手術は強制ではありません。同意がなければできません。
しかしながら、外科的介入の適切な時期を逸してしまうと胆嚢だけでなく周辺の肝臓を巻き込んで大ごとになるケースもあり、その時は胆嚢だけでなく周辺の肝臓毎摘出しなければならないという大手術になります。体への負担、死亡リスクや手術費用、合併症リスクも大幅に変わります。

先日も肝数値が高かった為に検査を実施し、中程度以上の胆嚢疾患が見つかり、しばらく経過を追った所、胆嚢粘液嚢腫化している所見が確認されたので動画を見せながら時間をかけて外科的介入の必要性や予後について説明(今後の起こりうるリスク、手術をしないという選択肢をした場合、手術した場合の定期的な検査や継続的内科治療等)をしましたが、案の定、転院されてしまいました。仕方がありません。
手術をしないでも大丈夫と言ってもらいたかったのだと思いますが、何かあった時に責任問題になるのでそんな無責任なことは言えません。転院先で状況が悪化しないことを祈るばかりです。

さて、ブログでも何度も触れてきた胆泥症の最終形態である胆嚢粘液嚢腫ですが、近年の論文から胆泥症が見つかった場合、時間経過と共に胆嚢粘液嚢腫になるリスクは高くなることがわかりました。つまり、胆泥症は無治療でも大丈夫という変な説が間違っていると証明されました。

もちろん、胆泥症と診断された全てが胆嚢粘液嚢腫になるわけではありません。ならない個体もたくさんいます。その経過を見るためには定期的なモニタリングが必要となります。

胆嚢粘液嚢腫の初期症状は、ほぼ無症状です。あっても軽度の肝酵素の上昇、全く数値の変動がない個体もいます。

よく「胆泥症は偶発的に見るかることがあります」とgoogle先生で調べると出てきたりしますが、偶発ではなく症状がなかったのでそこを見ていなかっただけです。健診などの検査で見つかった場合はむしろ幸運と云えます。全員に超音波検査ができればよいのですが毛刈りや費用等の問題から肝酵素が少しでも高かった個体にだけしか検査を勧められない現実があります。

今回は別の手術を実施するために行った術前検査にて偶発的に発見されてしまった胆嚢疾患に関する症例を報告いたします。

肝臓・胆嚢の超音波検査画像です。

術前血液検査にてALPのみ上昇(基準範囲の2倍ちょっとの値)があり、高齢という事もあり超音波で確認した結果、見つかりました。
胆嚢粘膜が著しく肥厚(厚くなっている)し、高エコー源性化(白が強くなる)しており、リアス海岸のような形状に変化してしまっています。
画像上では、胆嚢炎や胆嚢粘液嚢腫のどちらかあるいは併発している所見になりますが、飼主様の話を聞く限り無症状(のように見えていた)です。検査の際に、超音波プローブを胆嚢の直上に移動し、軽く圧を加えたときに痛がる場合は炎症の可能性が高いです。

手術時の画像です。

開腹して、胆嚢含む肝臓周りの目視による確認をしたところ、異常な外観を呈した胆嚢が目に入りました。
胆嚢は通常、胆汁の影響で濃緑〜黒っぽい色を呈しているはずなのですが、まだら模様に白や桃色を呈し、胆嚢を被っている被膜も充血しています。
胆嚢は触診でも何か詰まっている感があり、全体的に硬く、胆嚢に支持糸をかけても胆汁液の漏出もありませんでした。

摘出した胆嚢です。

いつもは黒緑っぽい感じにみえるのですが、どうみてもサツマイモにしか見えません。

胆嚢を切開し、内部の確認を行いました。

切開したときの印象は、食べたことないけどホヤみたい・・・でした。
胆泥や胆石の貯留はあまりなく、殆どが粘液で、かつそれが硬化したもので満たされており、さらに胆嚢粘膜壁は著しく肥厚していました。
毎回のルーティン作業で、胆嚢内容物を塗抹鏡検(塗抹標本の顕微鏡検査により、採取部位の細菌の有無と菌量及び菌種を迅速に特定する検査)したところ細菌や白血球は確認されず、細菌性の胆嚢炎ではなさそうでした。
後日の病理組織学的検査結果では「胆嚢粘液嚢腫」でした。

3つの手術を同時に行いましたが、3カ月程で肝臓数値も落ち着き始め、特に合併症もなく元気で過ごしていただいております。
本当は肝臓は肝臓、それ以外を後日にという形にしたかったのですが、全部やってくださいという強い要望があった為、手術される犬はもちろんの事、術者も頑張りました。

胆嚢摘出後は、肝酵素の数値が早い段階(2〜3カ月以内)で基準範囲内に戻る場合と高値のままで推移する場合の2通り起きてしまいます。結局のところ個体差なのですが、胆嚢起因性の肝臓障害がどれだけの期間起きていたのか、肝臓代謝機能に先天的な異常があるのかないのか(異常はあるが症状を伴わない個体が実は多い)、肝臓の予備能力がどの程度残っているのか等、様々な要因がある為、こうなりますよという事前予想が出来ません。

また、術後半年から1年後に残存胆嚢胆管内に胆石ができる場合もあり、肝内胆管に複数の胆石が出来てしまうこともあります。それらは外科的に摘出が困難なので、大きさや位置に変化がないか定期的にレントゲン検査でモニタリングする必要があります。

ですので、胆嚢疾患が見つかった場合、「様子を見ましょう」ではなく「今後、どうする?」となります。
無治療でも天寿を全うできることもあるし、症状はあるが内科的に何とか維持できることもあるし、外科をしなかったことで寿命が短くなることもあります。

何が最善なのかは正直なところ難しく、手術をした事で以前より食欲が増えた・元気になったというお声をいただいているのでやって良かったんだなと思う次第です。

ですので、手術をしたくないという場合は、その旨をしっかりと意思表示していただければできる限りの対応はします。