マイクロスコープを導入し、あっという間に2カ月が過ぎました。
外気温マイナスのかなり寒いときに輸送・搬入作業を行った為、組み立て設置作業中に室内温度の影響でレンズ内が結露して曇って見えなかったり、それが影響してかレンズ内に汚れが付着して出てしまい、視野に影が落ちてしまうトラブルもありました。
しかしながら、その効果は絶大で、肉眼や低倍率ルーペと比べて言わずもがな。
ただ…今まで見えなかったものが、凄くよく見えてしまうので歯科処置に要する時間が大幅に増加しました。

患者にとって麻酔時間が増えてしまう事は、延長した分、心肺機能等への負担にはなってしまいますが、やったつもりで実はしっかりと出来ていなかったという状況を回避できるメリットがあります。この事は後の治療成績に反映されます。
実際に肉眼でいつも通りに歯石を取った後にマイクロスコープでその場所を確認すると結構な取り残しがありました。3倍のルーペでやっても結果は同じでした。

特に歯肉縁下(歯肉溝内)の取り残しは歯周病の治療成績に影響を及ぼしますので、取り残しがないように行う必要があります。
重度歯周病の症例で骨吸収が著しかった歯をマイクロスコープを使って歯肉縁下の歯石を除去・不良肉芽の除去等(ルートプレーニング&キュレッタージ)の歯周治療を行うことで炎症が治まり、骨吸収部の骨再生が行われてプロービングポケットディプス(PPD)のスコアが改善している臨床治療報告が多数上がっております。
犬の場合、人と比べると条件さえ整えられられれば圧倒的に治癒力が高いことが分かりました。

※プロービングポイントディプスとは、歯肉辺縁からプローブ先端部までの距離のことで、歯周病が進行するとポケットは深くなる。

マイクロスコープを使うとどうやって見えているのかを各倍率毎で写真を撮影しましたので、ご紹介します。

●拡大倍率3.2倍

●拡大倍率5倍

●拡大倍率8倍

●拡大倍率12.5倍

●拡大倍率20倍

この写真は犬の頭蓋骨を使った歯内治療練習時に撮影しました。
光源を強くしたり、ピント調整をすることで根管内をしっかりと確認できます。

下の写真は、拡大倍率8倍で上顎犬歯の口蓋側(歯の内側の歯肉粘膜が凸凹した側)歯肉溝内の歯石を確認している写真です。
拡大した歯肉溝内にエアーをかけて口蓋粘膜と歯を分離すると白っぽい線上の歯石が確認できます。
これは肉眼では分かりません。

拡大鏡を使わずともハンドスケーラーを使って感覚的に手に伝わる振動や抵抗等を基準に縁下歯石を取ることは可能ですが、なるべく歯(セメント質)や周辺軟部組織へのダメージを最小限にしたいので、こういう時こそマイクロスコープを使って的確に、かつ低侵襲で必要なところ以外は触らないようにしておけば歯や周囲組織へのダメージが少なくなります。
より精密な作業を行う場合は倍率を最大の20倍にして処置を行うこともあります。

下の写真は、上の写真の上顎犬歯を拡大倍率5倍でスケーリングした際のものです。
動画から静止画にしているのでピントがちょっとあっていません。
倍率が高いと綺麗に見えますが、あまり高倍率で作業をしいていると視野が限られてくるので逆に作業効率が下がってしまいます。
その為、通常は拡大倍率3.2~5倍で作業をしています。その後、倍率を上げて局所的に対応しています。

歯科分野ではものすごく活躍してくれているマイクロスコープですが、一般外科手術でも大活躍しています。
ルーペだと焦点深度というものがあり、首を前屈させる必要があり頚~肩にものすごい負荷をかけます。
マイクロスコープだと基本姿勢はまっすぐ直立不動な感じなので頚・肩にかかる負荷がほぼありません。
一般外科に使用することで脂肪内の毛細血管をしっかり視認できるため、組織切開や切除時の出血がかなり少なくなり、また縫合時間も短くなりました。
元々、私は眼科をやっていた人間なのでマイクロスコープ下での作業に全く違和感がなく、効率よく作業が出来ます。

老眼の私にとっては、もはやなくてはならない存在になりました。
もうルーペには戻りたくありません。