今回は、フェレットの副腎疾患についてです。

中高齢のフェレットで良くみられる疾患として、副腎疾患インスリノーマリンパ腫というものがありますが、その中でも「副腎疾患」が一番診る機会が多いです。

フェレットの副腎疾患は、犬やヒトでいうところの副腎皮質機能亢進症(クッシング)とは異なり、性腺ホルモンの分泌過剰が原因で起こります。犬やヒトではコルチゾールの分泌が過剰になることで起きます。

なぜこのような副腎疾患がフェレットに多く発生するのでしょうか?

有力な説として、フェレットは幼少期に性腺を除去する手術を行ないます。その結果として副腎に存在する性腺ホルモンを分泌する細胞がその代償機能として増えたことが原因ではないかというものです。エストロゲンやヒドロキシプロゲステロン、テストステロンおよびアルドステロン等のホルモンが分泌過多になってしまいます。

しかしながら、フェレットの副腎疾患のすべてがこの性腺ホルモン分泌過剰で起きるとは限りません。それは副腎組織の過形成であったり、腫瘍性(腺腫、腺癌)変化であったりと病状は実に様々だからです。

因みに、過形成とは正常な細胞達が規則的に増殖した状態で限界があります。しかし、腫瘍は正常ではない細胞が不規則に際限なく増殖します。

では、副腎疾患とはどういう症状を呈するのでしょうか?

一番多く認められる症状としては「脱毛」があります。

最初は尻尾から始まり、腰背部や頸背部などにも脱毛が起きます。進行すると毛が頭部以外、すべて抜けてしまうことがあります。これは性ホルモンの影響で毛周期に異常が生じることで起きます。性ホルモンの分泌過剰な状態が改善されると再び毛が生えてきます。

フェレット

それ以外の症状として、皮膚の痒みや体臭の変化、メスでは外陰部の腫れや乳首の発赤、オスでは排尿障害がみられるようになります。

これらの症状が当てはまると言っても必ずしも副腎疾患とは限りません。臨床症状や年齢、血液検査、超音波やレントゲンによる副腎の大きさの確認などを行なった上での仮診断になります。確実なのは性腺ホルモンを測定することなのですが、高額な検査代がかかるわりには検査結果が微妙(明らかな副腎疾患なのにホルモン値が正常であることが多い等)なので、私は測定していません。むしろ、エコーで副腎の形や大きさを調べた方が対費用効果的には優れていると思います。もちろん、大きさは個体差があるので正常範囲内であっても異常である事もあるので、100%確実とまではいえません。

治療方法としては、一番確実なのは外科的に副腎を摘出することです。しかし、副腎は左右両方に存在し、右側が腫れている場合は非常に厄介です。右の副腎は、殆ど脂肪の中に埋もれた状態で探すのも大変ですし、何より大きな血管に隣接しているため切除が非常に難しいからです。外科の利点は、外科的に切除することで根治が見込める可能性があることと、摘出した組織を病理検査に出すことができますので確定診断ができます。

しかしながら、年齢や一般状態、その他の合併症の有無などの影響により麻酔に対するリスクが非常に高い場合や手術費用が高額である等の理由で手術が出来ない時もあります。

このような状況の場合は、内科的な治療を行なうことも可能です。それはテストステロン(男性ホルモン)やエストロゲン(女性ホルモン)といった性ホルモンの分泌を促す性腺刺激ホルモンの働きを抑制する製剤「リュープリン(リュープロレリン)」を使用します。基本的には効果は1ヶ月持続しますが、あくまで過剰なホルモンの分泌を抑えることで脱毛などの症状を軽減させることが目的であって根本的な治療にはなりません。この薬をやめれば当然のことながら症状は再び出てきます。また、その間に副腎が大きくなってしまうなどの問題も起きてきます。ですので、年齢が比較的若く、一般状態も良好であるならば外科的な方法で副腎を摘出することをお勧めはしております。

内科治療は、処置自体にリスクは伴いませんが治療薬は比較的高価で、継続的な治療が必要になります。外科治療は根治を望める可能性がありますが、麻酔などの様々なリスクが高く、一時的な費用も高額になります。それぞれのメリット・デメリットをしっかりと理解した上で最善の治療方法を考えていく必要性があります。