胆泥症は無治療で大丈夫という全く根拠のない一部の獣医師に対するアンチテーゼを送るこのコーナー

次は、胆泥症から胆嚢炎に至った症例です。

エコー機器の入れ替えで画像がなくなってしまい、初期の頃の画像がなくなってしまったので時系列をお伝え出来ない症例です。

胆泥症は、健康診断やその他の検超音波査の際に偶然見つかることが多い症状です。本症例も健康診断の血液検査にて肝酵素と中性脂肪が高いことが判明し、肝臓の超音波検査を実施しました。その間の健康上の症状は何もありません。いわゆる無症状という状態です。

当時のカルテ所見では、「胆嚢内に等エコー源性(肝臓の色合いと等しい色調)の貯留物あり、ポリープ様構造物?」とあり、利胆剤の処方と低脂質食への変更をしています。プリントアウトされた写真を見ると古いエコー機器の為、詳細は微妙な感じ・・・でも、問題ないレベルです。

その後、利胆剤と低脂質食での管理のもと、定期的に検査を実施していると10カ月後には「胆嚢壁の肥厚(粘膜が厚みを増している状態)、貯留物の高エコー源性化、胆嚢内嚢胞形成?」と症状が進行していきます。当時の症状は食べムラがある以外の体調的な変化はありません。肝酵素も利胆剤の影響で基準値範囲内〜やや高い程度

上の画像は最初の検査から約1年後に検査した時のものです。

通常の胆嚢は、肝臓の断面画像領域の中にポツンと黒い池のような空間があるというのが正常な状態です。そして、肝臓内側右葉という場所に薄い被膜という膜で覆われた状態で肝臓に付着しています。肝臓は厚みがあるため、胆嚢のすぐ横に大きな血管はみられません。

この画像の異常所見は、まず、胆嚢が肝臓と比較して白く(高エコー源性)変質しおり、かつ肥厚しています。また、胆嚢にほぼ隣接する位置に肝臓の血管があります。これは胆嚢が原因で隣接する肝臓にダメージを与えてつづけた結果、肝細胞が死んでしまい、ダメージを受けた領域の肝臓が薄くなってしまったことを意味しています。肝機能が低下している状態だと、肝臓は解毒や代謝などの一般業務と正常な再生とを並列して行うことができません。肝機能を維持するのに精一杯な結果、再生が間に合っていないのです。

こんな状態であっても、血液検査上は軽度の肝酵素(ALTとALP)の上昇と食べムラがある以外の症状はありません。
食負荷後の総胆汁酸の値は正常の2倍ほど高い値でした。

さらに月日が経った結果が次の画像になります。

一見、胆嚢壁が事前と比べて薄くなっている感じに見られますが、分厚い所と薄い所が存在します。また胆嚢の中にあるモヤモヤした白いものは非可動性で胆嚢の断層位置により量と色調が変わります。

以前に見られたポリープ様の構造物は確認ができなくなった為、おそらくポリープではなく、胆石や胆汁液がグミ化したようなものだった可能性が高いです。そして、最初の検査から2年ほど経過した状態が、上の画像で、明らかな岩状の構造物が胆嚢の中に形成されてしまいました。

この状況下では、さすがに症状が出てきており、超音波検査時に腹部圧痛が認められるようになってきています。
また、この時期になると腰背部痛も定期的に起きていたので、胆嚢炎が痛みの原因と推測されました。

基本的には慢性胆嚢炎や胆石症、胆嚢粘液嚢腫は手術適応となります。

症状がありますので、この症例は胆嚢摘出と肝臓生検を実施しました。

因みに、下の画像は正常な胆汁液が溜まった状態の胆嚢と胆嚢を切開した状態です。正常な嚢は表面はツルっとしており、うっすらガーゼが透けて見える状態です。胆汁液も水溶性の為、ガーゼにすぐにしみ込んでしまい何も残りません。

では、今回の症例の摘出した胆嚢です。

見てわかる通り、胆嚢が赤白く肥厚しており、見るからに正常胆嚢との違いが判ると思います。そして、胆汁の内容部はほとんどが微細な胆石と粘液、一部膿様物も出てきました。細菌感染は認められませんでした。そして、エコー上で見られた塊は胆嚢粘液種の時のようなグミ状の固いものでした。石化はしていません。

病理診断名は慢性胆嚢炎です。

診断医のコメントは「胆囊では、粘膜は不整に肥厚しています。粘膜は乳頭状から嚢胞状を呈し、腺内腔には粘液の貯留が起こっています。また、粘膜下には、軽度のリンパ球の浸潤や複数のリンパ濾胞の形成が認められます。粘膜の一部は内腔に突出しています。」

この状態を放置していれば、肝臓への持続的なダメージが蓄積した結果、慢性肝炎または肝硬変に陥っていた可能性が高く、かつ、将来的に胆嚢破裂を起こしていた可能性が考えられました。

この症例がきっかけではありませんが、同様な症例がいくつか発生した影響から胆嚢粘膜壁が肥厚している症例に関しては、状況により胆嚢摘出を勧めるようになりました。もちろん、インフォームドコンセントは行います。その結果、残念ながら、手術をしないで済む動物病院へのひっそりと転院をされる人も少なからずいます。難しいですよね…

脱線しましたが、この症例は、摘出後より食べムラがあった状態からむしろ食欲が増え、腰背部や腹部の痛みが一切なくなり、術前よりも元気になりました。肝酵素もALP以外は落ち着いています。食べムラの原因=胆嚢の痛みだった症例でした。

胆泥症、放置すれば、いずれ胆嚢炎

次回は、全くの無症状から突如、急性肝炎・胆嚢炎を起こし、内科的治療後、早期に手術を行った胆石症です。