今回は比較的見られる眼の病気についての話です。

最近は、純血種よりも混血種(雑種)が流行のようで、シーズーやパグ等の鼻の短い短頭種の仔犬はあまり見かけなくなりました。シーズーやパグ、フレンチブルドック等の短頭種では、眼窩が浅く眼瞼裂が鼻の長い犬種と比べて広いため、眼の表面の露出が強く出る傾向があります。その為、角膜や結膜に色素が沈着したり、角膜への血管新生や混濁などの症状を呈します。そして、この病状を「露出性角膜症(露出性角膜炎)」と呼びます。

露出性角膜症の定義としては、眼瞼の解剖学的構造、または動きの異常に起因、あるいは眼球自体の位置や大きさの異常に起因することで、瞬きに際して角膜の一部、または全体の領域が閉瞼されることなく露出されたままの状態とあります。

つまり、分かりやすく云い換えると、眼球が収まっている骨の窪みに対して眼球の方が大きく、眼球が窪みに収まりきれずに前面に出ている状態で、何らかの理由により瞬きしても上手く閉じきれない事が原因で起こってしまう角膜の病気のことです。

いくら眼が前面に飛び出ているとはいっても眼瞼(まぶた)は閉じればしっかりと閉じます。

では、なぜ露出性角膜症になってしまうのでしょうか?

原因は様々ありますが、一つには瞬目不全(瞬きがしっかりとできない状態)が原因と考えられます。

瞬きがきちんとできないと涙が眼の表面に均等に広がらずに乾燥しやすくなるばかりか、汚れた涙が鼻の方(涙点から鼻涙管)へ押し出されなくなるため、涙があふれて流涙(涙やけ)を起こします。

時々、チワワさんの眼の下が茶色くなっているのを見かけますが、これは涙がしっかりと排水されないために涙が眼から溢れてしまったことで被毛に付着し、そして涙やけを起こしてしまった結果なのです。

そして、汚れた涙が眼の表面にとどまっているため結膜や角膜を刺激して炎症を起こしてしまいます。これらの刺激症状がドライアイ(涙液減少症)、アレルギー性結膜炎、マイボーム腺機能不全の原因となります。

以前に「乾性角結膜炎」の所でも少し説明しましたが、涙は「油層・水層・ムチン層」の3つから構成されています。瞬きが上手く出来ないと、この油層が上手く涙に混ざらなくなり、結果として涙が乾きやすくなってしまいます。この油層は眼瞼縁にあるマイボーム腺という場所から分泌されますので、上眼瞼と下眼瞼がしっかりと合わさらないと油が上手く涙に混ざらないのです。そして、この油がないと瞬きもスムーズには出来なくなり、さらに瞬目不全が悪化していきます。

瞬きをしないと、角膜表面の涙は蒸発していきますのでドライススポットという涙が乾いた場所が出来てしまいます。人もずっと眼を開けているとだんだんと痛くなると思いますが、これは角膜の表面が乾燥することで角膜に刺激が伝わり痛みとして不快感を感じるためです。

この状態がずっと続けば角膜に対して炎症が起こり、角膜が混濁したり、色素沈着が起きたり、血管が入り混んだりと大変な状態になってしまいます。

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長期に放置しておくと、このように白目が真っ赤になり、黒目も大変なことになってしまいます。

このような状態になってしまうと完全に治すことは難しくなります。まずは抗生物質の点眼にして感染を抑え、ステロイドなどの消炎剤にて炎症を軽減させます。そして涙液が著しく低下していますので人工涙液やヒアルロン酸などの保湿成分を含んだ点眼液にて眼の表面に潤いをもたらします。

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左の写真は治療開始後7日目の写真です。充血が軽減し、炎症も緩和しています。右の写真は治療開始後14日目の写真です。写真ではあまり変化がないように見えますが、角膜の透明性は7日目と比べて増しています。しかしながら、角膜表層にできてしまった色素沈着や血管新生を改善させるまでには至りませんでした。

その後は継続的に点眼をしていき、点眼での治療と併せて瞼を閉じたり開いたりする「眼瞼マッサージ」とすることになりました。外科的治療としては内眼角形成術や眼瞼短縮術等があります。内眼角形成術は鼻涙管の損傷を避けるために手術用顕微鏡が必要となり、専門施設での手術となります。

様子をみてひどく悪化してから病院を受診するのではなく、まずは早めに原因を調べて対応できればきれいな眼を維持できるかと思います。