除雪、重症患者の治療や入院処置、手術などが続いたため、全く更新ができませんでした。

今回は、前回に引き続き、胃拡張・胃捻転症候群(GDV)の予防管理と治療についてです。

胃捻転は前回も触れたようにGDVを起こしやすい犬種というものが存在しております。 大型犬に多く、それも胸が深い犬種で多発する傾向があります。しかしながら、まれに小型犬や中型犬でもGDVを起こす事がありますので、該当する犬種に当てはまらないとしても十分な注意が必要になります。

まずは予防管理の方法です。諸説ありますが、一般的なものを紹介します。

GDVを起こしやすい犬種に対して推奨される管理方法(Small Animal Surgery 2nd Editionより抜粋)です。

1日1回の大量の食物よりもむしろ少量の食物を数回に分けて給餌する(食後の大量飲水も避ける)

給餌中にストレスを与えない(多頭飼育の場合、給餌中は犬を分けて与える)

食餌前後に運動させない(その予防効果は疑わしいようです)

食餌の容器を持ち上げて用いない(空気を一緒に飲みこんでしまうため)

⑤ GDVの病歴があるもっとも高い関連性をもつ犬を繁殖しない(遺伝的要因が云われているため)

GDVの危険性が高い犬には、予防的に胃腹壁固定術を考慮する(去勢や不妊手術を行なう際に一緒に)

腹囲膨満の症状に気がついた場合は、早急に獣医師に相談する

これらはあくまで推奨事項であって、この通りにしていればGDVにならないという事ではありません。あくまで予防処置として、上述した内容を常日頃から実施していくことが大切ということです。

もし、吐物を伴わない嘔吐流涎(よだれ)落ち着きがない等の症状に加え、腹部に進行性の拡張や鼓張(お腹を叩くと、太鼓を叩いたような高い音がする)が認められ、横たわって元気がない状態であったり、お腹を痛がり背湾姿勢(背中を丸めるような姿勢)を保っている場合は胃拡張・胃捻転を起こしている可能性が高くなります。その場合は、安静を保ちつつ、すぐにお近くの動物病院を受診してください。

そして、受診する前には必ず病院へ一報を入れてから行くことをお勧めします。

診察を行なう獣医師の立場から申し上げますと、例えば手術であったり緊急処置中で対応が出来ない場合もあります。対応(診察が)可能であっても情報が入ることで事前に必要なもの(レントゲンの準備や救急処置用の薬剤や道具)を準備することが出来、迅速な対応が行なえるからです。

治療についてですが、基本的にはショック症状を起こしている場合が多いため、点滴や薬剤を注入するために静脈血管を確保(静脈への留置針の挿入および固定)し、状況に応じた薬剤や点滴を行ないます。

それと同時に血液を採取し血液検査を行ないつつ、膨らんだ胃の減圧処置を行ないます。

減圧処置の方法は2通りあります。1つは口からチューブを胃までいれてガスを抜く方法、もう1つは経皮的に胃へ太い針を挿入しガスを抜く方法です。

前者が処置方法としては理想的ではありますが、痛くて苦しんでいる患者に対してチューブを入れるのは難儀なものです。その対処方法として、包帯や紐などでチューブを咬みきらないよう口を固定します。そして、歯の隙間(前臼歯と後臼歯の間)から潤滑剤を塗ったチューブをゆっくりと口から胃の入り口まで入れていきます(このチューブは予め口から胃まで距離を測っておいて無理やり押し込みすぎないようにしておきます)。もし、チューブが胃の中に入ったら「カポッ」とガスが抜けるような音がしたり、チューブから発酵臭がします。

前者の処置が難しい場合は、経皮的に針を胃へ刺してガスを除去します。

針穴からガスや胃内容物が漏出しないように三方活栓をつけて抜きます。

これらの処置はあくまで胃拡張に対する処置であって、胃捻転を完全に整復できるものではありません。捻転がごく軽度であれば口からチューブを入れた後に温水で胃洗浄を行なうと捻転が改善する場合もあります。

しかしながら、胃チューブや針による経皮的な減圧処置は手術までの時間稼ぎ(応急的処置)にしかならず、迅速な外科的整復処置が必要になります。

GDVは病院に来院するときは、症状が重篤である場合が多く、手術による整復もリスクは伴います。 捻転を起こしている時間が長ければ長いほど、胃や脾臓、その他組織への血流が遮断されてしまいますので、細胞の壊死が広範囲にわたってしまっている事があります。

胃はどういうわけか時計回りに捻じれる傾向にありまして、どうしてこんな状態になってしまうのか私はよく分かりません。

gdv01gdv02

「Hill’s Atlas of Veterinary Clinical Anatomyより引用」

この捻じれを正常な状態に戻すのが胃捻転の整復手術になりますが、脾臓が著しくダメージを受けている場合は同時に脾臓摘出が必要になりますし、胃が壊死をしている場合は壊死部分の切除、または胃陥入形成術を行なう必要があります。

また、再発防止の為に胃と腹壁を固定する処置も必要になります。しかしながら、全身状態が悪くしっかりとした固定が出来ない場合や、術中・術後に絶命してしまう事もあります。

術後も腹膜炎や致死性の不整脈、再還流障害などの合併症を伴うこともあり、術後の管理がかなり大変な場合もあります。

胃拡張・胃捻転症候群は早期発見と迅速な治療がなされれば予後は比較的良好ですが、遅れれば遅れるほど死亡のリスクが非常に高くなる怖い病気ということです。