今回は、イヌニキビダニ(毛包虫)についてです。

イヌニキビダニとは、学名:Demodex canisのことで、節足動物門鋏角亜門クモ綱ダニ目ケダニ亜目(前気門亜目)ニキビダニ科ニキビダニ属に属するダニです。寄生場所は、主に毛包内ですが、隣接する皮脂腺やアポクリン腺内にも寄生します。見た目はイモムシみたいな感じです。

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この犬の毛包に寄生するニキビダニが起こす皮膚症状を、「アカラス症」と云います。また「毛包虫症」や「イヌニキビダニ症」などとも呼ばれています。これら全て、イヌニキビダニという寄生虫によって引き起こされる皮膚症状のことを指します。

 このアカラス症は、主に免疫機能が未発達な若齢犬で見られることが多いです。このダニは、出産直後の搾乳中に母親から仔犬へと感染するといわれています。基本的に、殆どの犬がこのニキビダニに少数寄生していると言われていますが、その殆どは通常無症状です

このニキビダニは毛包の細胞や、皮脂、角質などを餌にしていますので、宿主から離れてしまうと生きていくことができません。

 症状として、このニキビダニが何らかの理由により異常繁殖し、毛包がダメージを受け、毛が抜けてしまうことで初めて気がつく事が多いです。通常、脱毛や軽度の紅斑が起きるだけで痒みはあまり見られないのですが、弱った皮膚にブドウ球菌などの細菌が二次的に感染してしまうと激しい痒みや発赤を伴います。また、痒みの為に皮膚を掻き壊して更なるダメージを受けると、皮膚が化膿したり、痂皮が出来たりしてしまいます。その症状が全身に広がってしまった場合、全身性に感染症が起きてしまうわけなので敗血症に罹って、最悪の場合は命を落とすこともあります。

病変は、身体のどの部位でも起こりますが、顔や前肢でもっともよく見られます。

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仔犬の場合は、栄養の状態や発育状況、免疫機能や遺伝的な要因が背景にあって発症することが多いので、適切な治療を行なう事で改善することが殆どです。しかしながら、成犬の場合は、免疫機能の低下以外にも腫瘍や糖尿病、クッシング、甲状腺機能低下症、アレルギー性皮膚炎などの基礎的な疾患が根底にあって発症する事が多いです。ですので、成犬の場合、発症してしまうと完全な根治が難しく、治らない場合もあります。特に、四肢の趾間に症状が出た場合は、非常にやっかいです。

 治療は、経口薬や注射薬、薬の直接塗布、薬浴によるニキビダニの駆除を行います。全身性に感染症をおこしている場合は、抗生物質の投与も併せて行います。一部犬種(コリー系など)はダニ駆除薬に対して毒性が強く出る場合がありますので、治療の前にMDR-1という遺伝子の異常がないかの確認が必要となります。