歯周病に関して3回に分けて解説してみましたが、これで理解していただけたかどうかは正直わかりません。

当院では身体検査において、口腔内の評価を必ず行っています。気難しい個体の場合は上口唇を軽くめくって歯石の沈着度合いや歯肉炎の状況のみを確認する位にはなってしまいますが、やらないよりやったほうが良いので可能な限りやっております。

歯の評価は視診と官能検査がメインです。

歯周病①と②で使わさせていただいた引用画像を見れば一目瞭然ですが、ある程度、歯石が覆いかぶさってしまっていると歯肉縁下の評価はレントゲン検査以外では難しいです。

そして、ステージ1といった軽微な場合、積極的に歯科処置を勧める必要性があるかは将来性を見越しての判断になることが多いです。

そこで登場するのが、昨年の12月に新たに販売された歯周病の評価検査キットです。

この検査キットは何なのかは、これから少し長くなります。

まず、歯周病の代表的な原因菌にPorphyromonas属という細菌がいます。

人ではPorphyromonas gingivalis(ポルフィロモナス・ジンジバリス)、Treponema denticola(トレポネーマ・デンティコーラ)、Tannerella forsythensis(タンネレラ・フォーサイセンシス)の3種類が数ある歯周病菌の中でも極悪御三家(Red Complex)と言われています…

この中のTOPに君臨するのが、ポルフィロモナス・ジンジバリス(以下、P.g菌)です。

Porphyromonas菌

人のお話になってしまいますが、このP.g菌、口腔内では実は少数派なのです。そして、酸素がある空間では生育できない偏性嫌気性細菌という体質を持っています。

そして、P.g菌は糖類を代謝できないという特徴をもつため、なかなかどうして仲間を増やすことができません。

その生育にはタンパク質やアミノ酸をものすごく要求します。それらを代謝した際に生じる有機酸などが悪臭を示し、歯周病の患者に特有な口臭の一原因となります。

タンパク質やアミノ酸…その代表的なものは血液です。

このP.g菌ですが、普段は酸素があると増えることすらままならない状況です。ですが、歯垢が歯や歯周ポケットに付着し始めると、歯周ポケット内はどんどん酸素濃度が薄くなっていきます。つまり、P.g菌が生き生きしてくるわけです。

歯垢は細菌の塊です。細菌は、より良い生育環境を求め、自分達にとって都合の良い環境作りを始めます。

それに対する生体の防御反応が、歯肉炎です。

歯肉炎、つまり歯肉部における炎症です。炎症は出血を伴います。

血液という栄養源を入手したP.g菌は、モンスターと化します…。数が数万倍にも増殖するのです。

以後、P.g菌と免疫細胞との熾烈な戦いが始まり、自らの骨を溶かしてまで戦いますが…結果は散々たるものになります。

本題ですが、犬にもポルフィロモナス属はいます。Porphyromonas gulae(ポルフィロモナス・グラエ。以下、グラエ菌)と云います。

このグラエ菌ですが、人と同じく歯周病の発症ならびに増悪に関わっています。

このグラエ菌ですが、以前は歯垢を採取し、グラエ菌のDNAの有無を確認し、そして遺伝子型を調べ、グラエ菌の悪性度、歯周病のリスク判断を行う検査を行っていました。遺伝子検査なので検査費用も高額でした。

前置きが長くなりましたが、そこで登場するのが序盤に出てきた検査キットです。

これはグラエ菌の活性度を確認できる検査キットで、遺伝子型を調べての悪性度評価を行う事はできませんが、歯周病の原因菌であり、増悪因子でもあるグラエ菌が現在、活発なのかを評価することで治療を早期に勧めたり、治療後の評価を行うことができます。

検査原理は、少々難しい言葉が出てきますが…

先に述べた歯周病極悪御三家(Red Complex)は、特定の合成ペプチドを分解するトリプシン様活性(N-ベンゾイル-DL-アルギニルペプチダーゼ)を産生する能力を持っています。検査キットのBANA基質がこの特殊酵素により分解され、β-Naphthylamideというものが出来上がります。このβ-Napththylamideに検査溶液を加えて化学反応を起こし、発色させます。つまり、発色が強い=β-Napththylamideが多く産生された証拠となります。

つまり、この検査キットにて、極悪御三家が産生する酵素活性度を測定することができるのです。

この検査は、まず最初に歯肉と歯の境界部に専用ブラシを数回こすりつけ歯垢を採材します。その後は手順に則って、13分後に評価を行うという非常に簡便な検査になります。

検査評価は5段階で行われます。

発色の強さにてスコア1から5まであり、スコア値が高いほど、グラエ菌等の酵素活性が高いことを示します。スコアが低ければ治療が上手くいっている、または歯周病のリスクが少ないことを示します。

この検査キットは動物用ではADplitと云いまして、人用ではADcheckとして医療機関に販売されています。

視診、官能検査以外に客観的な評価を行える実に素晴らしい検査キットだと思います。

歯科検診の際には、是非ともおすすめする検査です。

で、この新しい検査キットを紹介するために、長々と歯周病についてブログで書いたわけです…