最近、重度歯周病の治療を診る機会が多くなってきました、治療といってもその殆どが駄目な歯の抜歯処置です。

残せる歯は可能な限り残しますが、その子のおかれている環境や歯石のつくスピードや歯磨きができるか等を総合的に判断してどうするかを判断します。再建できそうにない場合は、抜歯になります。

本当は裂肉歯は残しておいた方がよいとは思うのですが、一番、重症化しやすい場所でもあるのでなかなかどうして、いろいろな葛藤があります。

当院では一般身体検査の中で必ず口腔内をチェックしているのですが、ある時の診察において「歯周病になっていますね」と言うと、数日後に飼主様の判断で無麻酔下での歯石除去をしてきてしまった方がおられました。麻酔下で歯周病治療を行うで、術前検査の予約をいれていた方だったのですが…

その行為自体を批判するつもりは全くありません。むしろ、歯石がついたのであればどんどんやっていただいて構いません。

ただし「歯周病になっている」と「歯石が付着しています」とでは意味合いがかなり異なります。

簡単に云うと、歯周病とは、細菌の感染によって引き起こされる炎症性疾患であり「病気」です。歯石とは、歯垢(プラーク)が石灰化した歯表面上での「状態」です。

私の説明不足なのかもしれませんが、表面の歯石をとっただけでは歯周病は治りませんし、知らない間にどんどん進行していってしまいます。おそらく、その子は次に歯石を取りましょうという段階ではきっと重度の歯周病で抜歯しないと駄目なんだろうなぁ…と感慨にふけっておりました。

そして、無麻酔下での歯石除去がどの程度まで行われているのか口腔内を観察してみると、取れているのは外側の見える範囲内のみで歯周ポケット内はばっちり残っており、歯の裏側は全く取れておらず、切歯間は取り残し多数、口臭は軽減しますが、歯肉炎は改善していない…これが現実です。

無麻酔下なのに数万円というかなり高い費用をかけて行った割には、中途半端で大変おそまつな内容だったのです…。

歯の表面に歯石がついているだけの状態ではあれば、それで構いません。ただし、歯周病が問題であり、それをしっかりと治療するためには歯肉縁下の処置が必須となり、無麻酔下での処置は不可能です。処置時に痛みを伴います。

もちろん、麻酔のリスクは個体差がありますので、それを不安に感じ、心配される飼主様の心情も十分に理解しております。

ただ、歯石除去での麻酔事故の状況を、一部ですが分析してみると、獣医師が直接施術していなかったり、麻酔管理を誰も行っていなかったり、事前検査を十分に行っていなかったりと、明らかに術前や術中管理に問題があった場合に事故が起きています。もちろん、何も事前検査では異常がなかったのにという場合もありますが、その確率はかなり低いと考えています。

とはいうものの、一介の獣医師の戯言では説得力がないので、私なんかよりも偉い人が言う方が説得力があると思い、以下に無麻酔下での歯石除去のリスクに関する問題点を指摘した内容がありますので、御覧ください。

PDFになっておりますので、直接、アプリやブラウザーにアドオンを入れてから確認してください。

日本小動物歯科研究会の無麻酔歯科処置の危険性についてです。

もう一つ歯科医師の方からの見解もありますので、御覧ください。