だいぶ間が開いてしまいましたが、とりあえずボリュームを下げてブログ記事をupします。

前回は「集団免疫」という考えについて書きましたが、今回は最近のワクチンに関する考え方ついて書きたいと思います。

前回は、なぜ1年毎なのかと勝手に個人的な意見を一方的に書きましたが、それが正しいとは言えないし、一概に間違ってもいない感じです。あとの方で説明しますが、免疫持続期間というのがあり、製造メーカーがデータとして出していた内容が昔は「1年間」であった為というのが恐らく正解だと思います。で、そのまま1年でずっと接種しつづける結果になっている…習慣的に…

では、なぜ今になってワクチン3年問題を考えるなんて内容を書こうかと思ったのかと云うと、一部の愛犬家サイトで「ワクチンは3年毎で接種した方が正しい、毎年接種すのは獣医師の金儲けであって犬にとっては害悪でしかない。ワクチンはアレルギーの原因になるだけ!」という一方的な主張をするサイトの内容をみた飼主様がそれを鵜呑みにしてしまう事例が多々みられるからです。

内容をみるとその一部は正しい内容であり、強ち間違ってはいないと思うですが、どこからの情報なのか出所不明だったり実はかなり古い情報であったり、偏向的な内容だったりと「Evidence」が高ければ良いのですが、低かったり、なかったりとブレが激しい感じでした。

実際の所、ワクチンの利益率は通常診察と比べればかなり良いというのは正直な所あります。とは云うもののあくまで「一般的には」です。因みに、当院では年に1~2回しか来院されない患者様もたくさんいますので、ワクチンだけ接種して「はい、終了」という事はしていません。可能な限り(できない子もいるので)一般健康状態を視診・聴診・触診を使って身体検査を行った上でワクチンの接種をしております。なもので、ワクチンを打って即終了のような所謂、単価/時間は他院さんと比べると低いかもしれません。また、ワクチンアレルギー(アナフィラキシーは除く)が起きた場合の処置料もワクチン代に含まれています。

話は脱線しましたが、「3年毎に接種するのが正しい、毎年接種するのは間違い」という内容の根拠になっているものを提示いたします。世界小動物獣医師会(WSAVA)のワクチネーションガイドライングループが提唱している「犬と猫のワクチネーションガイドライン」というものがそれに当たります。また、日本獣医師会も一応、Q&Aという形でワクチンの接種間隔などについてコメントを出しています。

WSAVAの内容はかなりボリュームがあって長いので興味がある方だけお読みいただければと思います。非常に簡略して説明しているのが日本獣医師会のQ&Aです。

因みに、このガイドラインはあくまでガイドラインであり、それに従わなくてはならないという強制力があるものではないと云うことと、それらが全て100%正しいかというとそういう訳でもないという事は理解した方が良いかと思われます。それは海外と国内データとでは検査方法や抽出群の違い等が原因で結構な差が出ていたりするので100%鵜呑みにできない場合があるからです。

では、長いのでガイドラインを簡単に説明します。

まず、ワクチン接種とはターゲットとする感染症に対する個体の免疫を上げるための手段であり、接種することでワクチンに対する免疫応答(免疫を担当する細胞が外来性および内因性の異物を抗原と認識し、特異的に応答して行われる反応)が起きます。それにより抗原が侵入した際に、素早く免疫機能が働き、抗原を攻撃することで病気の発症を防ぐことを目的とします。

そして、免疫持続期間(durationof immunity, DOI)という概念があり、現在のワクチンでは接種することで数年間免疫力が持続することが様々な実験データから知られており、最長なものでは終生持続する個体もいます。

ガイドラインの推奨する方法はまず、ワクチンを一括りにせず、コアワクチンとノンコアワクチンに分けて打ち分けることを推奨しています。

コアワクチンとは、世界中で感染が認められる重度の致死的な感染症から動物を防御する為に必要なワクチンのことで、犬ジステンパーウイ ルス(CDV)、犬アデノウイルス(CAV)、および犬パルボウイルス2型(CPV-2)の事をさします。日本では狂犬病が含まれます。

ノンコアワクチンとは、地理的要因、その地域の環境、またはライフスタイルによって、特定の感染症のリスクが生じる動物にのみ必要なワクチンのことで、レプトスピラやパラインフルエンザ等をさします。

ノンコアワクチンは抗体持続期間が短い(例えばレプトスピラ製剤)、あるいは抗体価と感染防御能との間に相関がない為、抗体測定を行う価値が全くありません。抗体価と免疫防御能力に相関性があることが分かっているのはコアワクチン(CDV,CAV,CPV)のみです。

WSAVAのワクチネーションガイドライングループは、様々な免疫学的な実験データから、コアワクチンは子犬の時の複数回接種の後は3年毎よりも短い間隔で打つべきではないと提言しています。そして、ノンコアワクチンは、地理的またその地域の環境やライフスタイルなどに応じて必要な個体にのみ接種すべきとしています。ただし、ノンコアワクチンは免疫持続期間が短いことが分かっているので、最低年一回の接種が必要になります。

では、WSAVAの提唱するやり方でよいのではないかと思われる方がいるかと思いますが、実は落とし穴があります。それは、全ての個体が3年以上の免疫持続能力を有しているわけではなく、個体差があるので100%大丈夫ではないからです。

海外のデータではウイルス種によって多少異なりますが、3年後にも免疫力が持続していた個体は90%以上という高いデータが出ています。先日行われた国内の学会にて4年後の免疫持続率CPV98.9%、CDV92.4%、CAV95.6%という高いデータが発表されました。

ただ、別の検査機関での調査では、3年後にCPV,CAV,CDV全ての抗体を免疫保有していた割合は全体の60%というデータも出ていました。この論文では1年目でも20%近くの個体で抗体価が下がっていました。

当院で抗体価を測定し統計を出してみると後者のデータに近い感じでした。国内で正式販売されたのが今年の2月なので1年目でのデータしかないですし、母数もまだ100未満しか集まっていないので、母数が増えれば数値は上がるかもしれません。

免疫応答に関してもう1つ重要な事項があります。それは、ワクチンに対して免疫応答が行われない個体の存在です。

ワクチンの接種を繰り返しても抗体応答が生じない場合、その動物は遺伝的に「ノンレスポンダー」と見なさなくてはなりません。ノンレスポンダーの個体は防御免疫を成立させることができない状態の事です。子犬のときは、母子免疫の関係でうまく防御免疫が獲得できない事がありますが、最終接種時期を生後16週間以降に行えば殆どの個体で能動免疫が成立すると云われています。

また、時折、製造メーカーにおける製造段階での様々なエラー等の原因により免疫応答が不成立になることがあります。これはワクチン製造段階での問題なので、施術する側の手技的問題でもなければ、動物側の問題でもないのでどうすることもできません。どのメーカーがそういう事を起こさないかなんていうのは正直な所、分かりませんし、予期もできません。

ワクチンに対する免疫応答は、個体差があり、3年以上もつ個体もいれば、1年未満の個体もいます。それを確認もしないで全ての個体で3年毎とするのは危険だと考えた方が良いです。勿論、「抗体がある=病気にならない」という事ではないということも理解しておいた方がよいと思います。

では、結局の所、どれが一番よい方法なのかと申しますと、結論としては「飼い主様と獣医師とが相談して、その子にあったプログラムをオーダーメイドで行う」がもっとも良いのではないかと考えています。

免疫検査はワクチンと比べれば、まだ高額ですので、もし抗体価が低下(陰性)していた場合は追加接種を行う必要性があり、費用が検査代とワクチン代の二重にかかってしまいます。ただし、抗体価が陽性であった場合は、基本的に追加接種の必要性がなくなるわけで、動物への身体的負担(アレルギー反応等の副作用)は軽減します。因みに、抗体検査は1回で終わりではなく、年に1回以上は行うべきものです。ワクチンを打たないために抗体価検査をするという考えでもよいですし、ワクチン接種によりちゃんと抗体価が上がっているかの確認の為でもかまわないと思います。

結局の所、この論争の終着地点は、どちらかが一方的に決定するのではなく、飼主と獣医師が相談して希望する方法を一緒に考えればよいのではないでしょうか?というのが個人的な感想です。

最後に、ワクチン抗体価検査キットの販売によりノンレスポンダーの選別やワクチンをいつ打ったか分からない個体や数年間ワクチン未接種だった個体へのワクチン接種の是非を院内で素早く確認できるようになった意義は大きいと思われます。

ワクチンをどうしたらよいか相談したいという方は、当院までお問い合わせください。